SUNAYAMA TAICHI
Eight Images
8枚の画像
ここに並ぶ8枚の画像、これらは新宿から小田急線急行で3駅先にある経堂の一軒の住宅の内部を映し出している。撮影日は2019年9月6日。小田急線ができた1920年当時は、新宿は東京の郊外であり、経堂が位置する世田谷も広大な農村地帯であった。古くは1507年に建立され永くこの地を護ってきた天祖神社の傍らにこの住宅は建つ。家主がこの場所に最初の家屋を屋てたのは1954年。宅地化が始まったばかりのこの地域で薬屋を営んだ。近隣が神社通りの商店街として栄え始めたころには看板建築化されるなど、増改築を繰り返しその姿かたちをかえながら60年の時を生きてきた。
ここに並ぶ8枚の画像は、第17回ヴェネチアビエンナーレ国際建築展日本館展示「ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡」(以下日本館展示)のために撮影されたものだ。各国パビリオンでの展示を中心としたヴェネチアビエンナーレは、1895年から続き、近代的な国際化の波とともに歩んだその歴史はすでに58回を数える。建築展は1980年に正式スタートし2020年にはその第17回が予定されていた。2020年3月4日。展覧会オープンまで3ヶ月を切っていたその日、特にイタリアで感染が拡大していた新型コロナの影響により8月からの期間短縮による延期が告知され、その後全世界的に感染が広がる中で2021年への繰越が決定された。感染が今後どのような状況をもたらすか、これまでもこれからも予測不可能であるように、2021年に展覧会がどうなっているのかは誰にもわかることはない。
ここに並ぶ8枚の画像は、経堂の住宅の3次元スキャニングデータから作られている。日本館展示では、建て替えによって解体される何気ない日本の戦後住宅の部材をイタリアに輸送し、参加する4組の建築家が組み換え再構築する展示計画が企図されている。解体に伴って失われる建物情報を保存するため、据え置き型の3次元レーザースキャナが用いられた。スキャナから照射されるレーザーの粒が建物表面にあたることで、そこにある建物が、R・G・Bの色情報とX・Y・Zの位置情報、合計6個の数字に還元されていく。
ここに並ぶ8枚の画像の撮影者は実質的に存在しない。6つの数字に還元された建物の情報を、コンピュータ上の3次元空間内で再構築する。わずか横幅15m、奥行き7.3m、高さ7.6mの領域内で計策された計測点の数は5億個におよぶ。計測する機械が設置されたのは数十地点に過ぎないが、コンピュータ上で点の連なりとして再構築された空間内部では、あらゆる位置や角度でカメラを設置することができる。われわれは、ヴァーチャルに架構された2019年9月6日のあの場所の止まった時間に、存在しないカメラをむけて浮遊する。