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COBAYASHI KENTA

Sneakers (Insectautomobilogy)

自動車昆虫論:スニーカーズ

「自動車昆虫論:スニーカーズ」は、人間と社会システムの関係を考察したシリーズである。

前身となる「自動車昆虫論/美とは何か?」(2007年)では、友人との「自動車って昆虫に似ているよね」という会話、そして恩師との「群知能(集合的無意識)が社会形成の根幹を担っている」という対話が起点となり、技術によって量産された自動車を、昆虫のように群れという単位で俯瞰したとき、人間社会を占領するほどの群知能を持ちうるというストーリーを写真と映像のインスタレーションで構成し、社会に対する予兆として提示した。

「スニーカーは、自動車のために敷かれたアスファルトに対応するために生み出されたもので、スニーカーの形状もまたどこか自動車に通じるよね」
今回もアイディアは彼女と散歩しているときに出てきた。

スニーカーや自動車、現代建築の曲線美にあるデザインの思想は、近い領域からインスピレーションを受けているのではないか。私も惹かれてきた、現代のテクノロジーが生んだ「カッコいい」(coolness)という美的価値は何か。

カッコよさは人間の情緒を刺激し、情動(affection)に訴え、ときには人を扇動させる。過去にはテクノロジーによって生み出された機械、速度、ダイナミズムの美学は進歩主義、全体主義へとを人を駆り立て、政治の審美化を促したことも事実である。

自動車やスニーカーに現れるカッコいい曲線美は、インターネットによって世界中がデータでつながった社会で、多国籍的な感覚によって無意識的に共有され生産され、市場原理による淘汰を経て醸成されてきた、グローバル経済における一つの美の指針であり、現代の私たちが駆り立てられている「未来」への、潜在的なプロパガンダでもある。

この作品は、StockX.comをはじめとするネットオークションから集めた画像による、デジタルコラージュによって作成されている。株式市場を模したStockXは、現代美学の背後に流れる、金融というロジックを端的に表していて、画像採取のフィールドとしてピッタリに思えた。

画像をイラストレーターでビットマップからベクターに変換すると、写真のグラデーション情報は一旦失われ、複雑でなめらかなパスの塊、集合になる。段階的に色を分けた擬似的なグラデーションで、写真が持っていた立体感を表現してる状態から、パスの形に沿って画像を分断し組み合わせていく。

感覚的につくっていき、最初は建築のような、廃墟のようなイメージだったのが、だんだんと映画に出てくるような宇宙船や戦闘機、 レーシングカーような形状になっていった。尊敬するラメルジー(RAMM:ΣLL:ZΣΣ)の作品に 《The Letter Racers》というシリーズがあり、これをリスペクトして制作に挑んだ。

やがて制作を進めていくと生き物のような形態が立ち上がってきた。魚のようにみえるもの、爬虫類のカメ、カエルなどの両生類のようなもの、怪獣の子供ような、キマイラが生まれてきた。コラージュという対象の要素や文脈を解体して、別のものへと生成変化させ統合していくプロセスは、群知能をもった生命の集合体を表すのに相応しい方法のように感じた。

小林健太

1992年神奈川県生まれ。東京と湘南を拠点に活動。
主な個展に「Live in Fluctuations」Little Big Man Gallery(ロサンゼルス、2020年)、「The Magician’s Nephew」rin art association(高崎、2019年)、「自動車昆虫論/美とはなにか」G/P gallery(東京、2017年)、主なグループ展に「ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて」水戸芸術館(水戸、2018)「GIVE ME YESTERDAY」フォンダツィオーネ・プラダ・ミラノ(イタリア、2016年)など。2019年には、マーク・ウェストン率いるダンヒル、2020年春夏コレクションとのコラボレーション、またヴァージル・アブロー率いるルイ・ヴィトン、メンズ秋冬コレクション2019のキャンペーンイメージを手がける。主なコレクションに、サンフランシスコアジア美術館(アメリカ)などがある。2016年に写真集『Everything_1』、2020年に『Everything_2』がNewfaveより発行。

https://kentacobayashi.com/

© Kenta Cobayashi

2024/12/22
10:19:31 JST

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