無題(ピラネージにならって), version 2021 at TPR
エマニュエル・ギヨーの作品は、東京で始まることが多いが、東京についての作品は数少ない。
まだ日本の首都に住んでいた頃、彼は地下鉄の地下構造に取り憑かれていた。 長期にわたって制作しているプロジェクト「無題(ピラネージにならって)」は、ユミコ・チバ・アソシエイツ(鷹野隆大との二人展「黒い白」)、アンスティチュ・フランセ東京、そして去年にはカンヌで展示するなど、様々な場所ごとのバージョンで発表されてきた。
TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCHで本プロジェクトを展開することになった当初、ギヨーは東京に戻り、制御機構としての地下鉄について、その長年の調査を続行する予定だった。しかし、世界は変わり、COVID-19によって国境は閉じられ、東京は突然アクセスできない場所となった。
TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCHでの《無題(ピラネージにならって), version 2021 at TPR》は、流出したイメージと想像上のイメージからなる作品である。
東京の地下では、何千台ものカメラが常に通行人のシルエットや動きを追跡し、評価し、確認している。とある地下鉄会社によって撮影されたものを除いて、これらのイメージは隠されたままだが – 不条理なことに – 全ての駅のデータはネットワークを通じて毎分処理され、アプリで公開されている。この無用なイメージのかたまりは、私たちがいかにスピードと効率、データに依存しているかを物語っている。また、作家にとってこれらのイメージは、インターネットを通じて流出した、遠い東京の姿でもある。
パンデミックの時期、東京に行くことができなかったギヨーは、異なる種類のイメージ、つまり想像上の東京の風景を作り出した。東京での記憶を自身が閉じ込められた都市環境に投影しながら、巨大なメガロポリスとしての東京の普遍的な性質と結びついたイメージを撮影することによって、彼の視線から生み出された東京の姿を捉えたのだ。作中に登場するいずれの画像も、比較的ローテクな古いスマートフォンで撮影されている。ギヨーはアプリで何千枚もの東京のイメージを集めたあと、その中から約40枚を選び、並べ替えて暗いスクリーンに映し出した。
本映像作品は、東京で制作・展示される予定であったインスタレーションの様子だが、実際には数千キロ離れたアーティストの地下アトリエに位置する。TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCHでの《無題(ピラネージにならって), version 2021 at TPR》は、中心も獣も存在しない迷路についての作品である。怪物とは迷路そのものであり、それは通行人を従順な身体の流れに服従させる。
Kristelle Frocainを偲んで。
エマニュエル・ギヨー、コリン・エンダーソン、クリステル・フロカン、マリオン・グロニエ、ジョナサン・ホール、河野智成 2021
エマニュエル・ギヨー
エマニュエル・ギヨーは、パリを拠点に ― 時には東京で ― 活動し、プロジェクションによるコレオグラフィー作品を制作してきた。
複数の写真は、暗闇の中の仄暗い幕、鏡、グラスウール、コンクリートなどのスクリーンに投影され、同期した状態で流れて行く。投影されたイメージは、スクリーンを構成する素材の厚さと質感などによって掠られ、鈍った表現になる。その結果、写真の真実は不確かになっていき、映写は幻影のようなものになる。
観覧者は、光線によって作り出された空間に入り、イメージを見るのではなく、感じるという行為に招かれる。
夜、男たちが偶然の出会いを求めてさまよい、お互いを探し、待つ「影の劇場」、都市の外縁部で撮影された写真をもとにしたインスタレーションシリーズ「until the sun rises」は、G/P gallery(東京、2009年)、School Gallery(パリ、2010年、個展)、東京都現代美術館(2010年)、シンガポール美術館(2011年)、Pavillon Vendôme, Clichy’s Contemporary Art Center(2015年)など、さまざまな場所ごとのバージョンで展示された。
ギヨーは現在、「I’ll lick the fog off your skin」と題した長期的なシリーズに取り組んでいる。日本の昔話に登場する欲望の概念を、クィアに読み解くことから始まったプロジェクトであり、パフォーマンス(ヴィラ九条山<京都、2018年>、フランス研究所<京都、2018年>、いずれもダムタイプのメンバーである川口隆夫と平井優子との共同制作)からインスタレーション(Collection Lambert <アヴィニョン、2019年>、Turba Factory<ベルリン、2022年>)といった形に作品を変容させていきながら展開している。
その他の主な展覧会として、「黒い白」、Yumiko Chiba Associates viewing room(東京、鷹野隆大との二人展、2012)、「Untitled (lines)」、Point Ephemere(パリ、2015)、「Untitled (traces)」、ONE National Archives USC(ロサンジェルス、2015)とアンスティチュ・フランセ東京(2017)、「Burning abysses」La Plate-Forme(ダンケルク、2017、個展)とFondazzjoni Kreattività(マルタ、2018)。
トーキョーワンダーウォール賞(2005年)、ヴィラ九条山(2018年)、博士課程の芸術研究のためのRADIAN助成金(2020年/2023年)を受賞したエマニュエル・ギヨーは、「Phantasmagoria, spaces for queering circulations of affect」と題したテーマをもとに、実践型の博士号に取り組んでおり、また、パリ第8大学、カーンとルーアンの芸術大学院で、空間におけるイメージの使用、ポストフォトグラフィー、クィア・アートに関するコースやワークショップを担当している。ユミコチバアソシエイツ(東京)とLa Banane(カンヌ)に所属。
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© Emmanuel Guillaud
Courtesy of Yumiko Chiba and Associates.